2018年4月22日~29日
  視察先

ドイツ(フランクフルト、ドルトムント、ケルン、シュツットガルト、ハノーバー、ベルリン)

SAP、ボルシアドルトムント、SIEMENS、juwi holding、RIMOWA、TRUMP、ハノーバーメッセ、Metro、DHL、Deloitte、Berlin Partner、Brickblock他

随行コンサルタント:小平勝也、三浦康志、橋本直行、村上勝彦、斉藤芳宜、片山和也

ドイツ(フランクフルト、ドルトムント、ケルン、シュツットガルト、ハノーバー、ベルリン)の視察ポイント

次世代産業革命 「インダストリー4.0 」牽引するドイツに"未来"と"永続"の秘訣を学ぶ1週間
世界の産業をリードしてきたドイツが掲げた「インダストリー4.0」構想から6年。
構想の波は「生産性の向上」から「産業構造そのものの改革」へ向かっています。
世界中が安価な労働力によるグローバル化と競争力維持で息詰まる中、
ドイツは戦いの舞台を「次世代産業の創造」に移しているのです。

ツアーレポート

【DAY1】

2018年4月23日 (月)

視察1社目:SAP(エスエイピー)


SAP社の外観

SAP社エントランスの様子

SAP社での講演の様子

(1)SAPの概要
 創業1972年、現在の売上高は234億ユーロ(約3兆円)、従業員数88,543人。
 社名のSAPは、システム・アプリケーション・プロダクツの頭文字から取っている。
 日本法人は売上高約1000億円、従業員数1200名。
 ただシステムを売るのではなく、SAPを導入してうまくいった会社の業務プロセスそのものを横展開するという考え方でソリューションを提供してきた(システムを売るのではなく事例を売る)。
 コラボレーションからイノベーションが生まれる。「まずお客から学ぶ」という哲学が徹底されている。お客のビジネスをできるだけシンプルにする。

 

(2)ここ5年間で新規事業が急成長:「産業まるごとデジタル化」
 従来はERPのベンダーであったが、現在はERPの売上高は全体の約4割程度。
 いわゆる「産業まるごとデジタル化」事業が、ここ5年間で急成長している。2010年は売上高125億ユーロであったが、2010年には200億ユーロとなった。
 「産業まるごとデジタル化」の成功事例としてアディダス社の例が挙げられる。同社では一人一人に合ったサイズのシューズを3Dプリンタで製造、右足と左足のサイズの違いにも対応させるかたちで、市販シューズと同じ価格で提供するサービスを開始した。
 上記アディダス社の様な本当の意味でのOne to oneビジネスが実現できれば、従来の莫大な宣伝広告費や、流通も不必要になる。産業に多大なインパクトを与えることができる。

 

(3)中小企業(SME)へのサービス展開について
 アンドレア氏より講演。SAPといえば大手企業向け、というイメージがあるが、中小企業(SME:スモール・ミディアム・エンタープライズ)にも浸透してきている。サービス名はビジネス・ワン。
 現在6万の事業所に対して導入がされている。700のリセラー(販売業者)がおり、28の言語に対応している。年間三桁の成長を遂げている。
 最新のIT技術を提供すると同時に、拡張性、選択の自由を提供している。

 

(4)中小企業(SME)向け、バリュープロトタイプチームについて
 フィリップ氏より講演。中小企業であっても、大企業並みのイノベーションを実現させたいと考えている。それを実現するのがバリュープロトタイプチームであり、SAP社内でも特殊な存在である。
 バリュープロトタイプチームではラピッドイノベーションを、イノベーションメソロジーという特殊なメソッドを使って提供している。イノベーションをスピーディーに行っていく。
 イノベーションが失敗するのは技術的な問題だけでなくて、マネジメントの問題も大きい。マネジメント層の支持を取り付けること、ビジョンを明確に示すことが重要。
 例えば事例として、南アフリカのNGOよりイノベーションへの要望があった。発展途上国であるが、動画を多くの人と共有したいというニーズがあった。発展途上国でもスマートフォンは普及しているため、SAPとともに動画アプリを制作、普及することができた。
 またスポーツビジネスへの事例もある。ただチケットをネットで購入するのではなく、帰路に興奮を維持して自宅に戻るところまでをフォローする。
 チケット購入後のスタジアムへの経路、レンタカーの情報、またスタジアム周辺での飲食店の情報を提供する。かつ特定店舗の混雑を防ぐため、今すいている店への誘導に対してクーポンをつけるといったサービスを付加する。
 またスポーツ観戦後も、どこの出口がすいているか、といった情報をリアルタイムで提供する。
 さらに公共機関に対して、難民の管理システムを提供したこともある。窓口に来た難民を管理し、仮想通貨をその難民にひもづけて、支援物資を提供する店に転送する。難民はその店に行くことで支援物資を受け取ることができる。
 さらに風力発電に関する予知保全のソリューション開発の事例もある。


キャンパスツアーの様子

どんどん拡張されていく建屋

広大な敷地に広がる建屋

(5)SAP社キャンパスツアー
 SAP社内を視察するキャンパスツアーに参加。東京ドーム8個分の広大な敷地の中に本社の建物が広がっている。69のビルがあり、敷地内には幼稚園や発電所まで完備されている。全従業員約9万人のうち、1.3万人が同敷地内で働いている。
 「イノベーションの高い仕事は、満足度の高い社員から生まれる」という哲学があり、社内の施設を充実させている。心身ともにリフレッシュできる公園の様な敷地や、テニスコートなどスポーツ施設が充実している。特に会社としてスポーツを推奨している。
 採用は中途採用が基本。従業員の7割が男性であるが、女性の比率を高めたい。その為に幼稚園を社内につくり、子供を預けて働ける環境を整えている。

【DAY2】

2018年4月24日(火)

視察2社目:ボルシア・ドルトムント


スタジアム内部の様子

選手を大切にする文化で知られる

エヒト・リーベ(本物の愛)のロゴ

(1)ボルシア・ドルトムントの概要
 創業1909年、ドルトムントを本拠地とする総合スポーツチーム。サッカー部門はドイツサッカーリーグ機構(ブンデスリーガ)に所属する。
 ドルトムントの人口は60万人であるが、サッカーを中心に多くの人を集めている。同スタジアムは平均集客人数8万1000人であり、欧州でもトップクラスの動員を誇る。
 我々は「人の感情」を扱うビジネスを行っている。

 

(2)ボルシア・ドルトムントのポリシー
 「人の感情」を扱うビジネスを行っており、最も大切にしているキーワードは「本当の愛(リアル・ラブ)」。勝っても負けても変わらず応援してもらえる関係性をファンおよび関係者と築く。
 意思決定はクラブのメンバーが取る組織形態となっており、いわゆる投資家や大企業がオーナーといった様な、スポンサーの意向を受けない経営形態をとっている。例えば海外の有名チームの中には、アラブの石油資本がオーナーであったりする。
 またコアビジネスと関係無いことはやらない。例えばホテルの経営等は行わない。
 できるだけフラットな組織を心掛けており、役職は少ない。全部で800人がクラブの従業員である。

 

(3)クラブの哲学と国際化について

 ドイツ内だけでの展開では限界がある。日本も含めた海外への展開が非常に重要と位置付けている。そのために自クラブの哲学を重要視している。
 クラブの哲学は大きく4つ。
①本物
②謙虚であれ
③サポーターと一体感を共有すること
④アンビション:志
 リーグで優勝することが必ずしも目的ではない。優勝は数あるチームの中でも1チームしかできない。
 同クラブのフェイスブックへの「いいね」のうち、75%が海外ファンからのものである。
 日本ではNOVAと提携して展開している。子供の段階から自クラブに親しんでもらい、大人になる過程でファンになってもらう長期戦略を持っている。

 

(4)同クラブのマーケティング戦略について

 同クラブのマーケティング責任者、デニス氏より講演。
 かつてはブランドロゴも複数あるなど、ブランドの統一化が図れていなかった。10年前からブランド・アイデンティティ統一し、「バイブル」と言われるマニュアルにまとめてある。
 最も重視することは前述の「本当の愛(リアル・ラブ)」である。さらに熱狂的なファンの「クレイジー&ラブ」も重要である。例えばファンがグランドキャニオンへの旅行の際、現地でドルトムントのユニフォームを着て、グッズとともに写真をとってSNS(フェイスブック)にアップした。
 試合中のファンのパフォーマンスについても、意図的にSNSで拡散するなどして、ファンの中での一体化を図っている。こうした施策により2億8000万人もの人にリーチできた。その広告効果は計り知れない。
 こうしたSNSを通したマーケティングについて、ファンに「マーケティングをしている」と感じさせないことが重要なポイント。


スタジアムツアーの様子

プレミアムスポンサー用ラウンジ

ラウンジから望むスタジアム

(5)スタジアムツアー
 講演のあと、スタジアムツアーを実施。
 プレミアムスポンサーは、スタジアムを室内から見下ろせるスポンサー用ラウンジを使用することができる。同スポンサーラウンジは非常に人気があり、現在スポンサー待ちの企業は200社にものぼる。

 

視察3社目:シーメンス


講演の様子

角田部長による講演

ドイツと米国が生産性トップ

(1)シーメンスの概要
 創業1847年、ドイツを代表する総合重電メーカー(情報通信、電力関連、交通・運輸、医療、防衛、生産設備、家電製品等)。グローバル従業員約35万人、売上高約12兆円。
 創業170年の超老舗でありながら変化し続ける、知られざるエクセレントカンパニーであると同時に、SAP社とならんでインダストリー4.0の中心企業。

(2)生産性を飛躍的に高めるために大切なこと
 同社 デジタルファクトリー/プロセス&ドライブ事業本部の角田部長よりご講演。
 生産性を世界比較で捉えると、ドイツ・アメリカが国民1人あたり1時間あたり生産性60ドルであるのに対し、日本は40ドル強である。
 実はアメリカは2000年以降、GDPが成長している。その要因は主にインターネット産業であるとドイツでは捉えている。ドイツではこれに対抗するためにインダストリー4.0を打ち出し、さらに生産性を高める考えを持っている。
 生産性を高めるためには、単に生産現場の改善活動だけではもはや上がらない。サプライチェーン全体でものづくりを捉え、サプライチェーン全体で最適化を行う必要がある。
 具体的にシーメンスでは従来の製造工程だけでなく、さらに川上の開発設計工程からデジタル化をすることが必要だと考えている。
 さらにハードだけではITに勝てないと判断、川上工程のソフトウェア会社を積極的にM&Aを行った。3次元CAD/CAMやデジタル・シミュレーションソフトなど。
 ものづくりを行う前に、コンピュータ内でバーチャルにものづくりの検証ができれば、マス・カスタマイゼーション(大量生産コストによる個別生産)が実現できる。その為にはシミュレーションソフトが必要であるが、0から開発する時間はない。そこで買収を積極的に進めた。

(3)インダストリー4.0を推進するマインド・ソフィアについて
 デジタルの世界で事前にシミュレーションを行い生産性も高めるためには、リアルからバーチャルへ・バーチャルからリアルの世界へ・をぐるぐる回す仕組みが必要である。
 こうしたリアルとバーチャル、川上工程と現場の設備そのものをつないで統合するソフトウェアが、シーメンスのリリースしたマインド・ソフィアである。
 例えば機械に取り付けてあるドリルが摩耗により折れる前に、モーターの負荷からそれを検知してドリルが折れる前にアラームをならす、といったことが可能である。このプロセスで機械の様々なデータをとり、どの様な条件設定にすれば稼働率が最も上がるのか、といった最適化・深い分析を行うことができる。
 製造業の現場だけでなく、空港でのバゲージシステムや、コカ・コーラの物流システムなどでも導入実績がある。
 マインド・ソフィアのクラウド利用料は月間4万円から。同様の他社のシステムと比較して非常に安い(1/10くらい)。インダストリー4.0は大企業だけのものではなく、中小企業まで巻き込んではじめて機能する。中小企業が採用できるシステムでなければ意味がないと考えている。

(4)組織マネジメントについて
 シーメンスはそもそもハードウェアの会社であり、ITに詳しい人材はM&Aや中途採用により外部からどんどん採用を進めた。従来の人材と社内的に軋轢がないわけではないが、イノベーションは進んでいる。

【DAY3】

視察3日目以降のレポートは本視察参加者のみへの公開とさせていただいております。

船井総研まとめセミナー

 総括

この4月22日から28日までの1週間、ドイツを訪問してきました。ここでは特にドイツ製造業の生産性の高さの理由について、筆者が感じたところをお伝えしたいと思います。

ドイツ製造業の生産性の高さの理由(1)周辺国との分業
ドイツはポーランドやトルコなど、周辺国との分業により生産性を高めています。例えばポーランドの人件費はドイツの1/4といわれます。今回視察したroger社(グループ従業員400名)の場合も、本社機能とオーダー性の高い製品はドイツ国内で生産していますが、汎用品はポーランドで生産するなど、中小企業であっても周辺国との分業を行うことにより自国の生産性を高めていることがわかります。

ドイツ製造業の生産性の高さの理由(2)デジタル化
アメリカではBtoC企業のデジタル化の事例を目の当たりにしましたが、ドイツではBtoB企業のデジタル化の事例を見ることができました。例えば今回視察したSAP社は、「産業のまるごとデジタル化」事業によって、売上高を倍近くに伸ばしています。また今回視察したArend社は従業員35人という規模ながら、経営陣は博士号を持つエンジニア集団であり、毎年2割の成長を遂げています。ここ数年のグレートカンパニー視察セミナーを通して感じることは、経営にいかに「デジタル」を取り入れるか、といったことが必須テーマである、ということです。

ドイツ製造業の生産性の高さの理由(3)ロボット化
今回の視察セミナーの中では、ハノーバーメッセへの視察も行いました。ハノーバーメッセで特に目立ったのは「協働ロボット」のブースです。KUKAやABBといったメジャーなロボットメーカーだけでなく、ユニバーサルロボット社といった協働ロボット専業のメーカーはもちろん、中小新興の協働ロボットメーカーが数多く出展されていました。従来の産業用ロボットが主に「人のできない仕事」を行うのに対し、協働ロボットは「人が行っている仕事」を置き換えることが主な目的です。従って人とともに働ける安全性に加え、コストが安く投資回収期間が短いといった特徴が協働ロボットにはあります。欧州では協働ロボットの開発が盛んであることからわかる通り、中小企業でもロボット化が進んでいます。

ドイツ製造業の生産性の高さの理由(4)地域に根ざしたビジネス
日本の場合は東京一極集中です。しかしドイツの場合はベルリンに企業が一極集中することはあり得ず、前述のSAP社の場合はヴァルドルフに本社があり、Arend社はモーゼル川近辺の人口数万人の地方都市に本社を置くなど、地元に根ざした経営を行っています。Arend社にはワイン醸造を趣味で行っている社員がいるなど、仕事とプライベートの両立が図られていました。
日本では東京などの大都市で働くことがステイタスですが、ドイツでは自らが生まれ育った地元を大切にして地元で働き続けることがステイタスになっています。

ドイツ製造業の生産性の高さの理由(5)残業無し
例えば4月27日の金曜日に訪れたroger社では、訪問したのはお昼すぎだったにも関わらず、大半の社員は帰社していませんでした。ドイツでは週38時間労働が根づいており、中小企業であっても午後からは休みになる会社が大半です。ドイツでは春・秋ごとに数週間にも及ぶ長いバカンス期間があり、こうした休みを楽しく過ごすためにお金を稼ぐために働く、といった価値観の労働者も多いといいます。ドイツの会社では基本的に残業はなく、限られた時間の中で成果を出さなければならない、といったメリハリが生産性の高さにつながっていると感じました。

今回の視察セミナーでも感じたことは、「デジタルシフト」の必要性です。例えば成熟業界の旧来ビジネスであっても、デジタル化を行うことで成長業態に転換できることを、今回の視察でも目の当たりにしました。それを強力に推進しようとしているのが創業170年のシーメンスであり、またサッカーチームのドルトムントは、従来広告からSNS広告にシフトすることで、極めて安いコストで2億8000万人もの人にリーチできているといいます。米国でもドイツでも、現在におけるグレートカンパニー化のキーワードの1つは、デジタル化であるといえます。

この記事を書いたコンサルタント

片山和也

工業高校・工業大学機械工学科を卒業後、大手専門商社の工作機械部門にてトップクラスの実績を上げる。船井総研入社後は一貫して生産財分野のコンサルティングに従事。部品加工業・セットメーカーに代表される中小工場・町工場向けコンサルティング、機械工具商社に代表される地域密着型販売店向けコンサルティングで成果を出し続ける。通算20年以上にわたり機械業界に携わっており、技術とマーケティングの両面を理解する超エキスパートとして、同分野で船井総研の第一人者である。

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